古本屋の始めかた:神奈川古書組合より

2019年03月

                  川崎支部 有限会社 十字社 近代書房

まったく! 入ってくる本を値付けしていると、毎日毎日初めて見る本がある。
もう40年も続けて来ているのに、これはいったいどうした事か?
ナゼ? ナゼこれほど長くこの商売を続けているのに見た事の無い本が毎日
あるのだ ろうか。
考えてみれば、正解は「毎日、新しい本が出ているから」という事なのだろう。
朝刊には日々新刊広告が載っているし、たまに新刊屋さんを覗いてみれば、
なるほど見た事の無い本だらけだ。
この数十年に出版された本に関していえば、大きな新刊書店にその間勤め
られていた書店員さんやその店に長年通い続けたお客さんの知識には
とうていかなわなかったりする。
しかしながら私たちの組合に所属して毎週神奈川や東京の古書市場に
出入りする古書店業者は毎回出品される数千冊の古書を見ているし、
その古書は売れるだろうと選ばれて出品された古書が大半だ。
(新刊書店に並ぶ書籍の何割が古書として売れるのだろう、また星の数程
出版された書籍のどれほどが)
ただ未見の本で驚くのはひどくつまらない本か、良い本だ。
うわっ、こんな本が出ていたんだという良書との出会いが多くの古本屋の
喜びのひとつだと思う。
しかも我々の出会う古書の時間軸は自分の生前、戦前、江戸時代、
さらにそれ以前に伸びているし、洋書や中国書等というように横軸もあり
古今東西のものが扱える。
そんな魅力がこの業界に参入を希望するひとたちが後を絶たない理由
なのかも知れない。
古書を楽しむお客さんに知っていただきたいのは、ネット専門の店も含み、
それぞれの町の古本屋にいつどんな本が入荷するのかが分からないことです。
我々の仕入れ先は店買い、宅買い、古書市場からの仕入れが主ですが、
どこの町にも読書家、蔵書家がいらしていつその蔵書を手離すのかわからないし
一店が神奈川県の全部の町の買い取りを隈なくすることはできません。
どの店にもそれぞれスタイルがあるので陳列された本やネット目録やホームページで
それを分析したり、店主に定期的に市場からの入荷があるのか、扱い分野など
訊ねてみるのもいいのでは。また当店では原則しないのですが、探究書の予約が
できるかどうか等、まずはよく行ける近隣の店からあたっていただけたらと願います。
電子書籍などの媒体が増えて、大きく分けてこれからは紙の本と電子書籍の
二通り(その併用も含め)となりますが、戦前、戦後蓄積された膨大な古書を頼りに、
やはり本がいいというお客さんを相手にさらに商売を続けられたらと思います。
この商売を続けていると生涯に1度は大きな取引があると言われています。
落語でいうと「芝浜」は少し違うけど、「火焔太鼓」のような事が起きたりもします。

―初夢や 火焔太鼓の 大商いー  「火焔太鼓」は志ん生で聴いてください。

             川崎支部有限会社 十字社 近代書房  山本豊彦

                          湘南支部 あさひ書店
今年、インターネットでオンラインショッピングを始めて20年目になる。
Windows 98が出現してからしばらく経ち、爆発的にネット通販が広がった時代で
あるので、当店に限らずこの時期前後にネット通販を開始したご同業も多いと思う。
今回、当時お世話になった方々に感謝しつつゆかりのあるホームページの
20年前の姿を再び覗いてみたいと思い、ウェブアーカイブ閲覧サイトで有名な
Internet Archive Wayback Machineを利用してみることにした。
最初は、ほぼ同時期に神奈川古書組合に入ったH書房。
この店の存在がなければネット通販を始めるのはずっと後だっただろうし、
自分の商売の在り方も大きく変わっていたであろう。
ここは、日本で最も早くインターネットに着目して、ホームページを持ったお店の
ひとつである。
当時、パソコンの知識が皆無であった私は、足繁くお店に通って教えを請い、
商売の邪魔をしたものである。
た、古書サーチエンジンのショッピングモールにも紹介していただいて、
店売りのみに限界を感じていた当店の、初期の商売の柱を作っていただいた。
店主の趣味で草花と天文写真が掲載されていた馴染みのあった表紙は、
中期以降のご本人自作オリジナルデザインであるが、その他エクセルを使った
新着情報もまめに更新して、よく検索エンジン上位で見かけたものである。
すっかり忘れていたが、ホームページでは絶版書専門店の看板を掲げて
商売していた。
交換会で山ほど仕入れた古書を丁寧に手入れしてジャンルにこだわらずネットに
登録する、一見当たり前の作業の大切さを身をもって教えていただいた、
閉店して久しいが忘れられない店である。
次は、組合の催事でもよくご一緒させていただいたR書店。
当店はこの店のホームページを徹底的に模倣した。斬新な切り口の企画、
強力で素早い在庫検索機能、当時は数少なかったショッピングカート採用、
どれをとっても20年前のレベルとしては破格で、現在の日本の古本屋の原点の
ようなサイトであった。
独自のドメインを持って、CGIを使いたいと思っていた当時、勝手にソースコードを
分析させていただき、使用しているプログラムと同じものを入手し、何とか目標に
近づこうと試行錯誤していたのが懐かしい思い出だ
コミック、写真集はじめジャンルは多岐にわたったが、当時のリストを改めて見ると、
今ならお宝本の山である。
惜しくも、R書店はオンラインショップをやめてしまい、今ではアーカイブでしか
見ることができなくなってしまった。
結局、当店の完成系は足元にも及ばなかったが、その名残である検索機能
現在も自店ホームページ上で働いている。
最後は今も現役のB堂。ここは、リンク・リストをよく利用させていただいた。
個性的で魅力的なオンライン古本屋が多く集まり、定期的にチェックするのが
楽しみであった。
Twitterが誕生するずっと前に日記・コラムという形で自ら発信し独自の
ブランドイメージを作るのが上手く、古書組合にもショッピングモールにも属さない、
店舗も持たないオンライン古本屋という新ジャンルを築いていった方々だが、
今回久しぶりにB堂のホームページを覗いてみたら、あの懐かしかった多くの店々が、
もう無くなってしまっていた。
今はamazonや日本の古本屋などのプラットフォームを使用して、自店ホームページを
持たないネット通販が主流であり、時代の流れとは言え淋しい限りである。
全盛期から比較するとずいぶん独自のホームページを持つ店は減ってしまった。
その後B堂は組合に入り、交換会を利用し、催事を始め商売の幅を広げ、
オンライン古本屋一辺倒からの変化を選択し現在に至る。
のおかげで、当時の面影を今なお残すB堂のホームページを今日も見ることが
できるのは私にとって大変懐かしく、ありがたいことである。
                         湘南支部 あさひ書店

                      横浜中央支部 ナインブリックス

♪月曜日は市場へ出かけ、本とDVDを買ってきた。
火曜日は……。
古本屋の朝は早い、ということは特になく、上の子を保育園に連れて行くと
下の子を病院へ。
2歳になる下の子は病院を恐れず、むしろ行くとなるとちょっと嬉しそうな
リアクションだ。
ちょっと鼻の薬を処方してもらうと、下の子も保育園へ。
熱もなくただ鼻をずるずるさせているだけなので休ませるほどではない。
11時10分くらいにお店へ。通常オープンが11時なので少し遅れているのだけれど、
なあに、開店前から人が待ってるわけでなし、ことに平日の午前中ともなれば、
まれに通りがかりの人が「開いていれば」店前のワゴンから文庫本を買っていって
くださるくらい。
そもそも古本は日用必需品ではないし、分秒を争うようなものでもない。
------
昨今、ワークライフバランスや働き方改革、あるいは父親の積極的な保育参加に
ついて興味を持ち、あるいは実現したいという人も多いかと思います。
「時間どおりにお店開けられなくても仕方ないんや!」という思い切りがあれば、
古本屋は比較的こうしたライフスタイルを実現しやすいかもしれません。
------
ワゴンを店前に出してラジオをオンに。いつもの文化放送。
いまだにAMらしさを求めてしまうのは高校時代、周囲でラジオが流行ったとき
家に唯一あったラジオが父親のAM専用ポータブルラジオだっせいかもしれない。
よく深夜に声優さんの番組を聴いていた。
準備というほどでもない準備を終えると開店しましたというツイート。
当店は店主一人きりなので、出張買取が入っていたり市場へ行ったりすると
開店時間がずれるため、特にマメに開店ツイートをする必要がある。
と思っているけどどうなんだろう。しなくても大して変わらないのかもしれない。
ともあれ店前ワゴンに本補充をすると、昨晩の閉店から開店までにネットで
売れた商品の納品書を順次印刷。
エクセルの台帳で本の所在を確認し、ピッキングしていく。
複数のサイトで販売しているため、他のサイトでの在庫の消込み作業。一冊ずつ梱包、
発送ラベルの作成と貼付などなどやっていると、ぽつりぽつりと店頭の商品が売れる。
といっても均一の文庫や新書がほとんどだ。
当店があるのは基本的に近隣で暮らしている人か働いている人しか来ないエリアなので、
無理もない、と思っている。
すると……。
「本の買取りってしてもらえますか」
「ええ、もちろん」
査定して、お支払いをする。段ボール3箱分。
大きい通りに面しているからか、車を店の前に寄せて持ち込まれるお客様も少なくない。
買い取らせていただいた本をひとまず裏に片付けると、再び発送準備に。
終わってみればラジオから聞こえる番組はいつのまにか「大竹まこと ゴールデン
ラジオ!」になっている。
少しだけお店を閉めて、発送へ。
クリックポストは道中のポストへ投函。その他は郵便局で差し出し。
戻って再び開店。発送通知。この間、だいたい15分から20分くらい。
クリックポストのみのときは5分くらいだ。
次の作業に入る前にバックヤード、というにはいささか狭いスペースで慌ただしく
昼飯のオニギリを食べる。
本を見て仕分け、値付け、台帳への登録をしていく。
台帳には必要な書誌情報や売価、コンディションなどが記載されている。
ぽつりぽつりと表の本が売れていく。お金を受け取って、お釣りを渡し、ノートに
記入する。当店にはレジがない。
夕方。お店のワゴンにクリップライトをつける。
気分転換に、登録して後ろの棚に積んでおいた本を店内の棚へ出していく。
基本的には空いている場所へ本を入れていくスタイルで、棚作りやジャンル分け
といったことはしない。
ただ、抜けの目立つところを埋めるようにする。
台帳へ記載した本の数がそれなりに溜まっている。
まとめてコピーして、自作のエクセルに貼り付ける。
苦労して作ったこのファイルに台帳のデータを貼ると、それぞれの販売先の
フォーマットに合わせたcsv書き出しデータとブログ用のデータが生成される。
書き出されたデータをそれぞれの販売先に登録して一括出品。
ついでにブログの入荷情報も更新。
微妙に時間が空いているので、30分ほど台帳への登録作業を続ける。
それから日中にネットで売れた本を午前中と同じ流れで発送準備。
------
ここまで読んでお判りのとおり、当店業務の大部分はネット出品用のデータ作成と
梱包作業です。
古書店の業務として一般の方が想像されるであろうものとは大きく異なります。
(といっても他店さんがどうされてるのか詳細には知りませんが……)
これは元々当店の販売がネットのみだったことや、メインが現実の商圏に
合わなさそうな偏った品揃えであることもあってか、今でも売上の90%以上が
ネット販売によるためです。
みなさんの周りでも客足が少なそうだったりしてどうやって成り立ってるか
解らないような小売店があったら、意外とネット販売がメインなのかもしれませんよ。
------
終わったところでそろそろ20時。ワゴンを仕舞うなど閉店作業をして閉店の
ツイートをする。
“本日もありがとうございました。明日は水曜、定休です”
帰り支度をしているうちに、ネットでもう一冊売れた。
少し迷ってから結局、それも発送準備をして、先ほど準備した注文品と共に持って
店を出る。
ポストに投函できるものは帰り道に投函し、入らないものは帰途にある横浜中央
郵便局へ寄って引き渡し。
ここはゆうゆう窓口があるので、24時まで荷物が出せる。
これから帰宅すれば、子供の寝かしつけというもう一つの仕事が待っている。
明日は朝、神奈川の市場に寄って落札品を回収してからお店に行こう。
------
他の都道府県の組合はよく知らないのですが、神奈川の古書組合は自前の建物を持ち、
そこで組合員のみが参加できる市場を開催しています。
(豊洲のセリに一般の人が参加できないのと同じようなものです。
こうした市場自体は各都道府県の組合にて開催されています。)
そこまで規模も大きくないのでお互いの顔が見える、わりとおおらかで付き合いやすい
組合だと思いますよ。
------
※水曜日から日曜日は割愛させていただきます。

♪友達よこれが私の“わりと実際に即したリアルで生々しい、としておきます”一週間の……。
                       横浜中央支部 ナインブリックス

下記要領にて、古書店開業セミナーを開催します。
これから古書店開業を考えている方、開業はしているけれど組合に加入していない方、
現場をちょっと覗いてみたい方等々、参加費用は無料ですので、奮ってご参加ください!

*今後の予定* セミナーと入会説明会を隔月で開催いたします。

【開催日時】2019年4月12日(金) 13:00~15:00
【今月のテーマ】古本屋の ためになる?!面白エピソード
今回は、長年古書店を営んでいる当会組合員が業界の面白ウラ話を語ります。
ためになるかならないかは、ご自身でご判断ください!!

【セミナー内容】
・組合の概要説明
・今月のテーマ
・模擬入札
・入会方法等の説明
・質疑応答
・市場見学 など
*内容は変わる場合もあります。
【申し込み方法】
下記のいずれかの方法にて、「参加開催セミナー開催月・お名前・連絡先」をお知らせください。
・メール kanagawakoshokumiai@gmail.com
・FAX  045-322-4122
・TEL  045-322-4060 (月曜日・金曜日 10:00 ~ 17:00)
 

                  川崎支部 ブックスマイル 西野俊幸
 私は現在61歳でインターネット販売専門の古書店を営んでいます。
もとは、サラリーマンで60歳まで会社員として働いていました。
このまま、60歳過ぎても在籍してもいい会社でしたが、若いころから
60歳以降は、自分の好きなように生きていこうと思っていました。
もっと正直に言うと、人に最終判断を仰がずに、自分で最後まで
決めることができることがしたいと考えていました。
しかし、いろんなものを50歳過ぎあたりからのぞいてみたのですが、
なかなか自分にしっくりくるものはありませんでした。
 5年程前に、半ばあきらめかけていた頃、学生時代に友達とよく行っていた、
神保町へいく機会ができました。そのときは古本屋を見にいったわけではなく、
当時の仕事の取引先への訪問でした。
 その取引先に最寄りの駅から歩いていく間に40年近くも前によく通った
街並みがあらわれました。神保町の古本屋街です。
懐かしい思いに駆られながら、仕事の商談後、一軒の古書店の入り口をくぐると、
そこは友達と一緒に英文学の古本をさがしまわったお店でした。
ひとしきり、日常の仕事のことを忘れて古書を手にとってはページをめくりました。
 その後、その場の感傷をもったまま、ある本屋で古物商の始め方という本を買い、
読みふけっているうちに、「そうだ、古本屋も古物商だ!」というひらめきにも似た
感情が沸き起こりました。
それがインターネット販売専門の古本屋をやってみようと思い立った、
「古本屋になったワケ」です。
それからは、神奈川古書組合のホームページをみて、勉強会にも参加しました。
その、勉強会が最終的に古本屋になろうと決断するため、最後に背中を
おしてくれたものです。
                   川崎支部 ブックスマイル 西野俊之
                        https://www.rakuten.co.jp/book-smile/
                   https://store.shopping.yahoo.co.jp/book-smile/


このページのトップヘ