少年時代の私が家族とともに花見に出かけた時に眺めた桜は、このエゾヤマザ
クラであり、その当時はソメイヨシノなどはなかったように思う。
そして私のなかの桜は、満開時の見事さ、華やかさの光景はない。
エゾヤマザクラの小さな花びらの、誠に貧相な風景でしかない。
その北海道から移り住んだ当座は、本州の木々は珍しかった。それが梅であっ
た。後に狭い我が家の庭に、近くの造園業者に頼んで白梅、紅梅をそれぞれ
一本づつ植えて貰った。
ところが植えて数年して判明したことは、この二本の梅はいずれも白梅であっ
たことだ。期待した紅い花びらの風景は幻に終わり今に到っている。
つまり造園業者が間違えたのである。時々家の近くで見かけるその造園業者に
出会った時は、苛めをするかのように「今年も紅梅の花は未だ咲かず」と口に
したものである。
その時は狂い咲きのように、一気に200ケ近い、またはそれ以上の大きな甘夏の
実がなるのである。大量に実をつけたその翌年は20数個で終わりである。
これが規則正しく繰り返されているから、不思議といえば実に不思議である。
甘夏がスーパーで1個100円前後で売られているのを3月半ば頃から見かけるが、
我が家の甘夏はスーパーで売られているそんな貧相なものではない。
私の眼には我が家の甘夏はスーパーのそれよりも1.3倍から1.5倍くらいの大
きさに見えて仕方がない。それほど大きくみずみずしいのである。
スーパーの甘夏をみて「なんでこんなのが100円もするの?」と秘かに冷笑して
いるのは嫌味だろうか。
これ以上言う果実農家には嫌がらせになるから謹んでおきたい。
ここで元機械メーカーの営業マンよろしく、我が家の甘夏を宣伝するとこうなる。
「この甘夏は無農薬、無肥料、ノーワックスです」・・・と。
つまり我が家の甘夏は植えて以来30年余り過ぎたが、未だかって農薬や肥料を
一度も与えたこともなく、果実農家が商品にすべくワックスを施したこともない。
つまり健康食品としてはこれ以上の質の高いものはないではないか、と考えている。
しかも私の足の太ももくらいの幹によくこんな沢山の甘夏がなるものだ、と感心
するばかりである。植物の恐ろしさを一面でみる想いでもある。
この甘夏を狙って、餌が乏しくなる2月頃から大小様々な野鳥たちがやって来る。
だか甘夏の分厚い皮に、鳥たちは太刀打ちできない。当然である。
ただ1度だけ推定20ケくらい盗まれたことがあった。
勿論、人間という動物に・・・、である。私は収穫時期に通りがかりの人が立ち
止まって、収穫を眺めていると、手に持てるくらいの甘夏を差し上げることに
してる。