川崎支部 有限会社 十字社 近代書房

まったく! 入ってくる本を値付けしていると、毎日毎日初めて見る本がある。
もう40年も続けて来ているのに、これはいったいどうした事か?
ナゼ? ナゼこれほど長くこの商売を続けているのに見た事の無い本が毎日
あるのだ ろうか。
考えてみれば、正解は「毎日、新しい本が出ているから」という事なのだろう。
朝刊には日々新刊広告が載っているし、たまに新刊屋さんを覗いてみれば、
なるほど見た事の無い本だらけだ。
この数十年に出版された本に関していえば、大きな新刊書店にその間勤め
られていた書店員さんやその店に長年通い続けたお客さんの知識には
とうていかなわなかったりする。
しかしながら私たちの組合に所属して毎週神奈川や東京の古書市場に
出入りする古書店業者は毎回出品される数千冊の古書を見ているし、
その古書は売れるだろうと選ばれて出品された古書が大半だ。
(新刊書店に並ぶ書籍の何割が古書として売れるのだろう、また星の数程
出版された書籍のどれほどが)
ただ未見の本で驚くのはひどくつまらない本か、良い本だ。
うわっ、こんな本が出ていたんだという良書との出会いが多くの古本屋の
喜びのひとつだと思う。
しかも我々の出会う古書の時間軸は自分の生前、戦前、江戸時代、
さらにそれ以前に伸びているし、洋書や中国書等というように横軸もあり
古今東西のものが扱える。
そんな魅力がこの業界に参入を希望するひとたちが後を絶たない理由
なのかも知れない。
古書を楽しむお客さんに知っていただきたいのは、ネット専門の店も含み、
それぞれの町の古本屋にいつどんな本が入荷するのかが分からないことです。
我々の仕入れ先は店買い、宅買い、古書市場からの仕入れが主ですが、
どこの町にも読書家、蔵書家がいらしていつその蔵書を手離すのかわからないし
一店が神奈川県の全部の町の買い取りを隈なくすることはできません。
どの店にもそれぞれスタイルがあるので陳列された本やネット目録やホームページで
それを分析したり、店主に定期的に市場からの入荷があるのか、扱い分野など
訊ねてみるのもいいのでは。また当店では原則しないのですが、探究書の予約が
できるかどうか等、まずはよく行ける近隣の店からあたっていただけたらと願います。
電子書籍などの媒体が増えて、大きく分けてこれからは紙の本と電子書籍の
二通り(その併用も含め)となりますが、戦前、戦後蓄積された膨大な古書を頼りに、
やはり本がいいというお客さんを相手にさらに商売を続けられたらと思います。
この商売を続けていると生涯に1度は大きな取引があると言われています。
落語でいうと「芝浜」は少し違うけど、「火焔太鼓」のような事が起きたりもします。

―初夢や 火焔太鼓の 大商いー  「火焔太鼓」は志ん生で聴いてください。

             川崎支部有限会社 十字社 近代書房  山本豊彦